一昨日、6月3日夜、香港のパフォーマンス・アーティストChan Mei Tung 陳美彤が逮捕された。銅鑼灣東角道で目の上にジャガイモを掲げ、ピューラーで皮をむき、それを燃やすというパフォーマンスを行っていたところだった。身分証を携帯していなかったことと、ライターで火を点けたことが原因らしいが、全く逮捕の理由にはならない。嫌がらせだろう。彼女は拘置所の臭く冷たい床で寝たのだろうか。心が痛む。明るくみずみずしい彼女が傷つけられるのは許せないことだ。
2015年9月、9 月 1 日(火)活化庁 九龍油麻地上海街 404でジェンダー、ジェニター、ジェニタリア−ろくでなし子トリビュート展(期日:2015 年 8月 29 日(土)~9 月 20 日(日)を観て来た。キュレーターは長谷川仁美さん
陳美彤はパフォーマンスビデオ「私を拡大して」(2014)を出品した。かねてからスマートフォンやタブレットの指で拡大する動作が卑猥だと思っていた彼女は裸体の両胸の上と股間 3 ヶ所に、乳房と女性器を映し出したタブレットを装着し、観客に 2 本の指でその画像を拡大させた。さらにスタジオを裸体のままに緊張なおももちで歩いていく。―最後にアクシデントが起きた。一人の男性が歩み出て毛糸の帽子を彼女に被せ、彼女の首にマフラーを巻いた。彼女の緊張は解けて、満面の笑みがこぼれた。一人の弱い少女へと戻ったのだった。
筆者にはフェミニズムとアートの邂逅の瞬間に思われた。またソウルの日本大使館前の「平和の少女像」にも寒い日には毛糸の帽子、マフラーが掛けられ、素足だからと靴が置かれていたことを思い起こした。地蔵にも近所の人が帽子や笠をさせるように像への愛情がそうさせる。
パフォーマンス、現代アート、土着信仰どこにも共通する見る側からの想いがそこに表れる。
ただ声高に女性への差別を訴えるのではないアートの方法をここに見出せるだろう。真に「美術の力」だと言えよう。
とわたしはかつて書いている。
牧 陽 一Yoichi MAKI「現代アート覚え書き 2015-北京・香港・東京 Memorandum of Contemporary Art in 2015 -Beijing, Hong Kong, Tokyo 」『 埼玉大学紀要(教養学部)』第51巻第2号 2016年
警察に不当な扱いはされないだろうか?心配している。香港の自由を踏み躙ったあの警察だから。