牧陽一の日記です。

埼玉大学 人文社会科学研究科 牧陽一の授業内容です。表紙は沢野ひとしさんの中国語スタンプです。

大浦信行「遠近を抱えて」とあいちトリエンナーレ 

あいちトリエンナーレ、表現の不自由展、その後再開のための集会、9月17日文京区民センターへいってきた。展示中止になった原因となった作品「遠近を抱えて」の作者、大浦信行さんもご来場だった。再開を求める仮処分申請を行ったということ。さらにアライ=ヒロユキさんの作品解説もあった。

この後文化庁補助金打ち切りという暴挙に出た。政権の弾圧によって、日本の現代アートは今まさに殺されようとしている、危機に瀕している。

ここでは「遠近を抱えて」についてメモを残しておきたい。

kk392.hatenablog.com

最も参考になるのは上記の加治屋健司氏の論考である。

大浦氏は昭和天皇をコラージュしたこのシリーズが「自画像」であるという。天皇はシルクハットにモーニング、ステッキと服装が西欧化していき、欧米列強を過度に模倣し、植民地主義を擬態する。日本は戦前では自己植民地化からアジア侵略植民地化へと向かう。さらに戦後天皇家は幸せな家族の象徴となる。ディズニーランドでパレードを見て笑う天皇がコラージュされている。天皇という中心が主体性を失い、鵺的に変容していく。それは作家自身、さらに日本という場所が、欧米を過剰に模倣し、擬態し、植民地主義に陥っていく姿だと思われる。それは戦後に至っても変わらずアメリカの被植民地化を擬態する。

こうした見方から作品を解釈すれば、天皇批判などではなく、極めて自己観察的であり、自己内部の客観的な描写であることがわかる。

またPart2は(天皇の肖像を燃やすのではなく)自身の作品を燃やす映像であるが、これは自画像焼却による自己否定的にも見られるし、作品が載っている「富山の美術86」の470冊の図録が93年に焼却処分さてたことを再現してもいるのである。

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遠近を抱えて

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牧陽一 大浦信行さん 20190917