牧陽一の日記です。

埼玉大学 人文社会科学研究科 牧陽一の授業内容です。表紙は沢野ひとしさんの中国語スタンプです。

昨日は偲ぶ会140人の方々においでいただきました。ありがとうございます。亡き妻 阪本ちづみ 略歴と主な業績です。


略歴
1958年11月8日 葛飾区の北千住に誕生。ちづみは千住から(?) 父は農業経済学 者の阪本楠彦、母政美。兄は数学研究者の阪本ひろむ。後に千葉 県流山市に転居。江戸川台小学校、流山市立北部中学校、千葉県 立東葛飾高校を卒業。卓球部に所属した。

1977年4月-1981年3月 お茶の水女子大学教育学部中国文学専攻(山登りも、日中学院でも中国語を学びました)
1981年4月-1986年6月  三井物産株式会社中国室 事務職(乗馬部)
1986年9月-1987年9月  天津 南開大学中文系留学 
中国名は阪本千鶴美(バンベン・チエンハァメイ)
1988年4月-1990年3月 お茶の水女子大学大学院 人文科学研究科中国語学・文学専攻修 士課程修了
1990年4月-1994年3月  お茶の水女子大学大学院 比較文化研究科博士課程
1994年4月-1995年3月  お茶の水女子大学教育学部中国文学専攻 副手
1995年4月-2003年3月  法政大学経済学部 助教
2003年4月 法政大学経済学部 教授 (2016年に至る)
2003年4月-2004年3月  北京大学中文系 訪問学者

1992年4月1995年3月  東京女子大学 非常勤講師
1993年4月1994年3月  和光大学 非常勤講師
1994年4月1996年3月  聖心女子大学 非常勤講師
1995年4月1996年3月  早稲田大学 非常勤講師
1996年4月1998年3月  駒澤大学 非常勤講師
1997年4月1998年3月  お茶の水女子大学 非常勤講師
1998年4月1999年3月  日本大学 非常勤講師
2000年4月2000年9月  東京大学大学院・文学部 非常勤講師(三十年代大衆文学論)都立立川高校、第一商業高校などでも中国語を教えました。

1988年11月  牧陽一と結婚 秋津、大宮盆栽町、西国分寺に住む。
1999年3月  長男 牧十和誕生
2016年9月28日 午前8時23分 他界

主要な業績

発表:都市小説として『啼笑因縁』を読む お茶の水女子大学中国文学会例会 1990年6月
張恨水作『啼笑因縁』の小説構造を20年代の北京という都市の構造と結びつけ、小説にかくされた新たな「都市」を読みといた。

都市小説として『啼笑因縁』を読む 『お茶の水女子大学 中国文学会報』第10号 1991年10月
張恨水のベストセラー小説『啼笑因縁』を、都市を手がかりに読み解こうとしたもので、公園、西山等の場所としての意味を考えつつ、小説構造が20年代の都市の構造と密接に結びつき、都市そのものを描いた小説であることを論証した。

馬原小説札記 『中国当代文学研究会会報』 第7号 1991年10月
1985年頃からポスト・ルーツ文学とよばれる小説が出現した。馬原はその先駆といわれ、実験小説とよばれる数々の作品を発表した。本論は馬原の小説を読み解きながら、その文章の奥に潜む文革体験の影を論じ、新たな馬原論を展開した。

(書評)張恨水及び通俗文学評価をめぐって 『東方』131号 1992年2月

『啼笑因縁』をめぐるもうひとつの物語 『季刊中国』28 1992年3月
『啼笑因縁』の流行のしかたを追ったもので、この小説をめぐって起きた当時の張学良と映画スターのスキャンダル、映画化権をめぐっての訴訟事件、著作権裁判など当時の資料をもとに、文学作品の受容とマスメディアの関係を考察し、新しい小説の受容の例としてこの小説を位置づけた。

鳥を飼う老人 ―陳建功と都市― 『季刊中国』38 1994年9月
陳建功は北京を舞台にした小説で有名な若手作家である。彼がどうして北京を描き続けるのかという問題を解明する上で、北京という都市の特殊性はそれが都市の中の大いなる田舎であり、中国人の精神的故郷となっていることを明らかにし、陳建功の小説の変化を都市の変化とからめて解読した。

蘇童―逃げても逃げてもメビウスの帯― 『中国語』421 1995年2月
蘇童は新写実主義といわれる若手作家で、90年代最も注目されている。彼の主要作品の紹介と、その底辺に流れる何者からも逃げてしまいたいという意識を解説した。

張恨水―頑固な売れっ子作家―『中国語』425 1995年6月
張恨水の主要作品とその生涯を追い、彼が通俗作家として非難されながらも一生涯その立場を変えようとしなかったその矜持の精神を紹介した。

張恨水『平滬通車論』―近代に乗り遅れた男 『お茶の水女子大学中国文学会報』第16号 1997年4月
張恨水の『平滬通車』を通じて、当時、小説を掲載した『旅行雑誌』の性格や、時刻表、コンパートメントなど鉄道がもたらした知覚の変容を論証した。

発表:張恨水列車の旅 お茶の水女子大学中国文学会例会 1997年7月
張恨水作品を通して30'sの北京と上海。その間をつなぐ列車がどういう意味を持つか、検証した。

王安憶『長恨歌』―可愛的上海小姐 『季刊中国』 53号 69-76, 1998年06月
王安憶の長編『長恨歌』について上海という都市とその意味について考察した。全8頁69〜76頁

発表:四十年代のひきこもり作戦 お茶の水女子大学中国文学会例会 1999年7月
四十年代の通俗小説と上海の弄堂および建築物(二階建の家)、亭子間の空間とのつながりを検証した。

小説と映画化―張恨水『銀漢双星』の場合 『季刊中国』87号 2006年12月

メロドラマの中の狂気 : 張恨水の代表作から 『法政大学多摩論集』 31号, 81-96, 2015年03月
 最後の論文となりました。張恨水の代表作を取り上げ、狂気を軸に論じています。

書評:岸陽子著, 早稲田大学出版部, 『中国知識人の百年 文学の視座から』, 2004年3月刊, 343ページ, 4800円。中国研究月報 59(4), 39-40, 2005-04-25

エッセイ:2003年サーズの年に北京大学に子連れで在外研究。その時の思い出を書いたもの。
新歳時記 春の巻 菜の花の思い出 『季刊中国』 (84号), 34-37, 2006年3月
新歳時記 夏の巻 海水浴『季刊中国 (85号), 36-39, 2006年6月
新歳時記 秋の巻 香山に登る『季刊中国』 (86号), 50-53, 2006年9月
新歳時記 冬の巻 厳寒の北京『季刊中国』 (87号), 44-47, 2006年12月

ウェブ雑誌ARTiT:
艾未未アイ・ウェイウェイ)のことば8 『不合作方式[FUCK OFF]2』展(フローニンゲン美術館)に関する対話 艾未未、崔燦燦(キュレーター、批評家)訳 / 阪本ちづみ 2013年10月23日 

艾未未のことば9 芸術の啓発 インタビュー / Zoo Magazine」(2010年、NO. 26)訳 / 阪本ちづみ 2014年3月18日

艾未未のことば10 変えていく力  インタビュー / ケイティ・ドノヒューWhitewall Magazine(2010年 春号)訳 / 阪本ちづみ 2014年6月7日

艾未未のことば11 人権の現状がアーティストに与える影響 ヘルタ・ミュラーとの対話2010年3月ケルン国際文学フェスティバル講座(司会:ミシェル・クルーガー)からの抜粋 訳 / 阪本ちづみ 2014年11月12日

艾未未のことば 14:最大の変革  インタビュー / 艾暁明(アイ・シャオミン)2010年4月1日、北京草場地フェイクスタジオ 訳 / 阪本ちづみ 2016年5月10日
最後の翻訳の仕事になりました。アイ・ウェイウェイ研究に欠くことのできない重要な文献の翻訳訳注です。

出版物:
(翻訳) 紙の上の月 中国の地下文学 発見と冒険の中国文学7 JICC出版局 1991年10月
中国の文化大革命終末期、北京の青年達が雑誌を地下出版した。その中でも一番の力を持ったのが「今天」という文学雑誌であり、その中から、有名な詩人、小説家が排出した。この翻訳は当時の「今天」掲載の短編小説を翻訳したものである。 全238頁中、北島作「旋律」(原題:旋律)、萬之作「雪―遠い風景」(原題:遠方―雪)を担当 監修:宮尾正樹 共著者:栗山千香子、大西陽子、阪本ちづみ、西野由希子、宮尾正樹

東アジアの新世紀 第4巻 アイデンティティ 岩波書店 2002年12月
東アジアの新鋭の論文集の訳。 劉・丁乃非の論文「同性愛とクィア戦略」の翻訳。台湾の同姓愛文学とそれをとりまく社会の「無言の寛容」について分析したもの。

アイ・ウェイウェイスタイル 現代中国の不良 牧陽一、浅見洋二、阪本ちづみ、宮本真左美 勉誠出版 2014年2月
ISBN:9784585270188  
現代中国を代表するアーティスト、建築家艾未未の政治・芸術・公民運動についてのインタビューの翻訳

所属した学会:日本中国学会会員 中国研究所所員  現代中国学会  お茶の水女子大学中国文学会

ひとこと   牧陽一
阪本ちづみは1920、30年代の中国大衆小説 張恨水作品の研究を中心に仕事を進めてきました。それはイデオロギーに絡めとられた中国近代文学史を大衆の側から書き換えることだったと思います。作品構造を都市構造、近代交通、映画、メディア、近代建築、近代病理、ジェンダーから読み解く斬新な切り口による論文は普遍的な読みの面白さを備えています。また同時に結末に至る哲学的思索は論自身を魅力的な作品に仕上げています。また前近代と近代の狭間に揺れ動く作品世界を動的に描写する論考は躍動感にも満ちています。さらに論考は文革後の実験的文学・芸術にもおよび、先駆的な論文を残しています。また最近の訳業は中国における人権問題、民主化という観点にも繋がっていくでしょう。何を残したかよりも何に向かっていったのかという点でも阪本ちづみの存在は大きかったと思います。(2016/11/22)