牧陽一の日記です。

埼玉大学 人文社会科学研究科 牧陽一の授業内容です。表紙は沢野ひとしさんの中国語スタンプです。

木曜4週目です。左小祖咒、艾暁明…

1限 日本アジア文化論 2/2 左小祖咒 国家に裏切られた経験1997年6月27日東方化学工廠爆発事件、
http://sucra.saitama-u.ac.jp/modules/xoonips/detail.php?id=KY-AA12017560-4702-14
http://sucra.saitama-u.ac.jp/modules/xoonips/detail.php?id=KY-AA12017560-4801-14
艾暁明「裸は抵抗の印だ」…
http://sucra.saitama-u.ac.jp/modules/xoonips/itemselect.php?op=quicksearch&keyword=%E8%89%BE%E6%9A%81%E6%98%8E&search_itemtype=basic
感想「二人とも見た目などは正反対ではあるが、中国という社会に立ち向かい自分の意見を隠すことなく主張していることが勇気のあることだと思う。大学の先生が胸を出したり、左小祖咒が変な歌を歌ったり、見た目だけでは可笑しいが、裏側にはしっかりとした考えが構築されており、インパクト効果も狙っているのだと知った」
3限 特殊講義 アジア的専制アート 母性から父権支配へ 毛沢東の身体 次回は拡張と増殖 太陽神 毛沢東 


4限 演習 中国現代アート作家論 呂勝中 隋建国 次回は蔡国強ほか

aica JAPAN NEWS LETTER ウェブ版 第 3 号 2013
美術評論家連盟会報 http://www.aicajapan.com/newsletter/webnewsletter_3.pdf



「もの」と現実―艾未未/隋建国

牧 陽一


「もの派」の物質への追及が中国現代アー
トの中にあっただろうか?或いは物質に思索
を集中し、そこにとどまるようなアーティス
トはいただろうか?それから人は死んだら物
質になるのか言葉になるのか?
次に筆者は艾未未作品を考えた。『1 トンの
お茶』―人間に煮出して飲まれるお茶の葉は
綺麗な立方体に固められた。北方のモンゴル
ではお茶が採れないから、南から煉瓦の形に
固められたお茶が運ばれる。ナイフで削って
少ししょっぱい羊の乳のミルクティーにする。
貴重なビタミン源だ。北の乾いた風さえ想像
してしまう。『月の箪笥』―長い間、人々に使
われてきた古い箪笥に丸い穴を穿ち、並べる。
穴を覗き込むといくつもの丸が重なって満月
になったり三日月になったりする。紫檀の立
方体も家具から解放された姿に見える。人は
想像する動物だ。これらの作品は美しい言葉
でそして物質だ。想像する事は止められない。
だから人が介在する限り、物質の根本へとは
思索がとどかない。

思索を空にする感覚だけにする。そう考え
ていると隋建国の作品が脳裏に浮かんできた。
1990 年前後の『結構(構造)系列』―抱えき
れないほどの石を 10 ㎝ほどの鉄筋で網状に包
む。あるいは一度砕け散った石を元に合わせ
て、石の割れ目に鎹を打ちつけて縫合する。
大きく真っ二つに割れた巨石を数十本の金属
チェーンで繋ぐ。80 度に割れた石の断面に湾
曲しあるいは切断した鉄筋が露出している。
巨石の柱の一部に異色の石材が嵌まり込んで
いる。重量感、質感、感触を想像し、やがて
石を削る或いは鎹を打ちつけるハンマーの軌
道を砕け散る石、金属音を溶接の火花を想像
する。腕力を思い暴力的な作業を思い、そし
て生命の残忍さや回復をイメージするに至る。
しかし隋建国の作品は 1994 年を過ぎると物
質の質感の追求の中から「閉じ込める」イメ6

ージだけが突出してくる。『沈積する記憶系
列』では数十の石を鉄筋の柵で封じ込める。
鳥籠の中に石塊を閉じ込める。鉄の箱に石を
封じ込める。さらに『生存空間』(1995)では
中国製の丸い鳥籠を川に浸け、中には鯉が数
匹閉じ込められている。軍と民は魚水の情―。
ここで暴力のありかが明らかになる。隋が
1990 年からつくってきた閉じ込めるイメージ
は 1989・6・4 天安門事件の暴力へと結び付け
られた。あの事件への態度を積み重なった記
憶にし、作品へと転化していくのに 5 年かか
っている。
この閉じ込めるイメージは更に具体性を帯
びてくる。1999 年には巨大な赤い恐竜、『中国
製メイド・イン・チャイナ』がつくられ、2000
年代に入るとこの 2 メートルもある赤い恐竜
を赤い鉄柵に封じ込めた『侏羅紀』が繰り返
し制作された。2005 年には普通の布団に横に
なって眠っている毛沢東を陶器でつくり、周
りに無数の恐竜の玩具を並べた『理性的沈睡』
(2005)をつくっている。ここまできて封じ込
めるべきものが恐竜なみに古く時代遅れの毛
沢東そして中国共産党の暴力であることが明
らかになる。ポップでチープ、そして実に安
易なものに見える赤く塗られた恐竜に 10 数年
の累積した思索の絡驛が込められている。と
同時にアートが現実と地続きにならざるを得
ない事を示している。

艾未未の作品『Straight (2008-12)』は四
川汶川大地震跡から回収した 38tの鉄筋を真
っ直ぐにして並べたものだ。また 2013 年トロ
ントの野外展では 3144 台の自転車で構成され
た『永久・自転車』が展示された。この作品
は登録証のない自転車に乗っていたために起
きた楊佳事件を思い起こさせる。事件は警察
暴力と司法不在を浮き彫りにした。艾未未
「1 台の自転車の合法性の問題が1つの国家
の司法の合法性問題を引き起こし、個人の死
亡が国家司法倫理の死亡を誘発する。」と指摘
する。
「もの」にとどまって深く思索することを
許さない現実の苛酷さが、あるいは作家の強
い態度が物質を物質のままにはしておかない。
それが中国現代アートの現状ではないだろう
か。

今日の枕 浦志強逮捕拘留 習近平+毛沢東