牧陽一の日記です。

埼玉大学 人文社会科学研究科 牧陽一の授業内容です。表紙は沢野ひとしさんの中国語スタンプです。

「善き人のためのソナタ」とアイ・ウェイウェイ盗聴事件

闾丘露薇さんの(闾丘露薇 从大V到不受欢迎的公知——谈新闻自由和威权国家的审查及宣传)をふるまいよしこさんの訳解説「著名元記者が語る「中国の言論の自由、ネット、そしてプロパガンダ」」で読んだ。

中国の言論統制のやり方を具体的に説明しており、4月の授業の最初で教材として使おうかと思っている。

このZOOM講座で、監視国家における密告、告発の方法の具体例として、「善き人のためのソナタ」を例にしている。

さっそく、見てみた。1984年の東ベルリン。盗聴される反体制作家は、いくつかの監視ランクから「西側に訴える可能性のある厄介な人物」と見なされていた。直接すぐには逮捕できない。やがて盗聴監視した人物がその作家の思いに触れるにつれて、命令に背いていく。人間性が打ち出されるわけである。

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善き人のためのソナタ

 

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さて私はアイ・ウェイウェイが監視され、盗聴器まで仕掛けられたことを思い出した。現在の中国は80年代の東ベルリンと同様かそれ以上の監視社会だ。艾は2011年4月3日から6月22日までの81日間の拘束以来4年3カ月余りも中国政府の監視下に置かれ、国内に閉じ込められていた。数十の監視カメラがアイのフェイクスタジオに向けて設置され、スタジオの前には毎日監視の車が止まっていた。アイは監視している20そこそこの青年に、スタジオに入って、話を聞けばいいし、私が出かける時には助手として一緒に来て、誰と会うか監視していいと誘っている。2015年、7月30日、パスポートを奪回したアイはいったんベルリンへ向かうが、10月3日、母親である高瑛(1933生まれ)の肺炎が悪化し、艾は北京に戻る。翌日4日、スタジオの内装工事をしようとしたところ、コンセントから盗聴器が見つかる。寝室からも見つかった。缶のバケツに入れて爆竹を鳴らす映像をインスタグラムに掲載する。盗聴器は艾が拘留され、スタッフが事情聴取され、スタジオに誰も入れなかった2011年4月3日以降、警察公安当局によって設置されたと考えられる。

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告発、密告を良しとする考え方は、反右派闘争時期、文化大革命以降、庶民の間でも顕著になった。監視社会をつくるのは独裁体制ばかりではなく、それを受け入れる庶民の態度でもある。

まさに人間性の問題なのだ。

しかし今、言論規制は先に触れた香港の大学、言論界にまでに及んでいる。闾丘露薇の微博weiboは書き込み禁止になり、大陸出身の学生が彼女の授業をボイコットする。

これは中国、香港だけの問題ではなくなるだろう。日本でも劉暁波ノーベル平和賞受賞、釈放運動の時、一部の中国人学生は張り紙を破り、或いは沈黙した。64天安門事件前後の民主化運動の時も、日本で運動に参加した中国人留学生は密告を恐れていた。

(恐怖であれ、正義であれ)他人を密告するか、沈黙するかしかない窮地に追い込むやり方が、中国共産党の方法なのである。

2012年の反日デモは中国政府のコントロール下にあった。以降、日本人と中国人は相互に対して悪い印象を持つようになった。これも操作されているわけである。

SNSでは、中国の良心的なオピニオンリーダーの発言に対してもコメント欄で罵声を浴びせるなど、いわゆるネトウヨのような五毛党進化系が、愛国愛党を宣伝し、公共世論を操作しようとする。

結局情報は玉石混淆のままで、大混乱で満足する。庶民を分断して得をするのは誰か?情報のソースをしっかりと見るべきだろう。

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