中国現代アート、林天苗に関する質問に答えました。いい質問だったので、名前を伏せて、公開させていただきます。
2020/03/10
牧 陽一 様
初めてメールを送らせていただく、Nと申します。
現在、大学で、アジアとアフリカの現代美術理論コースの修士課程に在籍しております。
いま中国現代アートの授業を取っていて、中国の女性アーティストの作品における"Nudity"というテーマで、グループプレゼンを行うことになりました。私は、林天苗の作品について担当することになったのですが、手に入る資料が少なく、どのように分析したら良いのか悩んでいます。いろいろと調べているうちに牧先生の授業内容のページ「女流作家の特色 女性の課せられてきた裁縫という労働を作品化する 林天苗 尹秀珍 孫原&彭禹」に辿り着き、メールを送らせていただきました。
林天苗のインタビューを読んで、私自身が感じていることは、以下の2点になります。
1.作家自らの身体の変化への関心をもとに制作している
2.妊娠や出産、育児などに関して、女性の置かれた境遇に疑問を投げかけている
少し引っかかっている点は、林天苗が「フェミニズムは西洋のものであり、中国にある概念ではない。私自身、フェミニズムの観点から制作しているわけではない」と繰り返し述べているところです。林天苗は、作品を通して、中国の現代社会において女性であるとはどういうことかを追求し、性別による固定的な役割分担を押し付けてくる社会を批判しているように感じられるのですが…。
牧先生が授業でどのように林天苗の作品を取り上げられたのか、ご教示いただけませんでしょうか。
お忙しいところ不躾なお願いをしてしまい、大変申し訳ございません。
よろしくお願い申し上げます。
N
N様:
大方の理解に間違いは無いと思います。
例えば「卵」という作品、福岡アジア美術館で展示。無毛に処理された自分の全身から無数の糸が伸びて先には大小様々な糸玉。これは女性が一生の内に排卵する数。
妊娠出産育児で動けない間に包丁食器全ての家事用品を糸で梱包する。ミシン自転車。行動の全て。自由への束縛。
さて疑問のフェミニズム。
林天苗はおそらく中国伝統の女红(女工 女功)nuにウムラルトgong 発音はニユイ ゴン
を問題にしてもいる。
裁縫 刺繍 織物 縫製など女性が課せられてきた労働
漢書 卷五 景帝紀
農事傷則飢之本也
女紅害則寒之原也
衣食住という大切な生活要素の一つを女が担ったという事。それは自由への抑圧にもなるし、生活への「誇り」ともなり得る。
抑圧だけでは、単純に過ぎる。女性性のあり方を現実のままに提示する事で、様々な議論を促し、それぞれの複雑な有り様というこれからを考えることができる。
中国の現実と伝統から思考した。だから西洋のフェミニズムではないと言っているのでしょう。結果的にはそうでも。
さて西欧でも伝統的な女の仕事 キルトとか裁縫。林天苗はそこまで思考は至らなかったのでしょうか?
なぜ女の仕事は共通するのか?
他にはどんな作品がこうしたテーマを扱っているだろうか?
どのように違うのだろうか?共通するのだろうか?
そんな事を考えました。
牧陽一
2020/03/16
牧陽一様
ご返信いただきまして、本当にありがとうございます。
林天苗の作品について引っかかっていたいくつかの点が、「女红」について教えていただいたことで、また違った角度から捉えられるようになりました。キルトや裁縫を扱ったアーティストとして、塩田千春やアネット・メサジェの作品が思い浮かびました。塩田千春が赤の糸にこだわるように、林天苗が白にこだわる理由はなんだろうかと、もう少し考えていこうと思います。
実は、ここ数日の間に、イギリスのコロナウイルスの状況が様変わりしていて、学校の授業はなくなり、いつロックダウンされてもおかしくないからと、留学生が続々と帰国していっています。カンボジア、シンガポール、タイ、韓国、台湾、中国、日本、アメリカ・・・、友達がひとり、またひとりと帰っていきます。私は、イギリスに居残ることに決めたので、ちょっとずつ生活必需品を買い揃えているところですが、ロンドンの街から人がどんどん消えていっているのが少し恐ろしいです。
突然メールを送ってしまったにも関わらず、ご丁寧に教えていただいたこと、本当に感謝しています。
日本の状況も深刻そうですが、何卒ご自愛くださいませ。
N
N様
尹秀珍も塩田千春も
2000年の横浜トリエンナーレに参加しています。
接点があります。
新型肺炎で日本も皆んな
引きこもっております。
いろいろ調べてみては?